【弁護士が解説!】借金800万円を自己破産した男の末路

今回は、コロナによって多額の借金を抱え、自己破産した方についてご紹介します。

皆さんの中にも、コロナによって収入面でダメージを受けてしまった方は、いるのではないでしょうか?。

そこで今回は、実際にどんな背景から借金をしてしまったのか?そして、その借金問題をどのように解決したのか?について解説していきます。

また、意外と知らない自己破産のメリット・デメリット、自己破産の条件についても解説します。

この記事を読めば、自己破産をするとどうなるのかがリアルにわかります。

現在借金をしている方、自己破産を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

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自己破産した事例

今回の事例は、埼玉県にお住いのTさんです。

Tさんは個人タクシーのドライバーとして10年以上働いており、月の収入はある程度安定していました。

そんなTさんの悩みは、お子さんが中学校に進学したために、学習塾や習い事など色々な面でお金がかかるようになってきたことでした。

そこで、教育費を捻出するため、Tさんは日常生活にかかる費用を基本的に、クレジットカードで支払うように切り替えました。

といっても、日々の支払いをクレジットカードに切り替えたところで、Tさんの日常は大きく変わりませんでした。一回払いのみで問題なく支払えていたからです。

しかしある時、友人の結婚式などが重なり、支払いが厳しい時期が訪れます。

そこでTさんが取った策は、一回払いからリボ払いへの切り替えでした。リボ払いは毎月定額払いで負担感があまりありません。

「これは便利だ」と感じたTさんは、次第にお子さんの私立高校の入学費なども、リボ払いでまかなうようになり、知らぬ間に残高がどんどん膨らんでいきました。

そして気づけば借入総額が700万円、月の返済額がなんと15万円になっていました。

なかなかの返済額ではありましたが、幸い収入が安定していたため、なんとか返済は続けられたそうです。

収入減により自己破産を決意

そんななか、新型コロナウイルスの蔓延により事態が急変

都市部がロックダウンされ、タクシー利用者が激減したことで収入が半分程度に落ち込んでしまいました。

この収入では生活するのがやっとで、月々の返済に回す余裕が完全になくなりました。

この状態がずっと続いたら700万円の借金など絶対に返済できない・・・

そう考えたTさんは、断腸の思いで自己破産をしようと決断。弁護士事務所の扉を叩いたのでした。

では、ここで一度、Tさんが弁護士事務所に相談しに来た時の、彼の借金状況を整理しておきましょう。

Tさんは銀行とクレジットカード会社8社から計700万円の借金を作っていました。

もともと収入は安定していて返済もできていたのですが、借入額が膨らんでいたため、少しでも収入が減ると返済が厳しくなる状態でした。

そこに新型コロナが直撃し乗客数が減少、収入も激減したことから一気に返済不能に追い込まれてしまったのです。

弁護士が自己破産を勧めた理由

では、このTさんのお悩みに対し、当時の弁護士はどのような判断を下したのでしょう。

結論からいうと、弁護士もTさんの考えに同調し、自己破産を勧めました

借金が700万円なら、通常であれば個人再生か自己破産が有力な解決法となります。個人再生を選択した場合、700万円の借金は140万円に減額されます。

なぜなら、個人再生では債務総額に応じて「最低でもこのぐらいは支払ってくださいね」という最低弁済額が決められているからです。

借金総額最低弁済額
100万円未満全額
100〜500万円未満100万円
500〜1,500万円未満借金総額の5分の1
1,500〜3,000万円未満300万円
3,000〜5,000万円未満借金総額の10分の1

こちらの表をご覧いただくとわかるように

債務総額が700万円、つまり「500万円以上、1500万円未満」の場合は、債務総額が1/5まで圧縮されると決められています。

ですので、Tさんの借金は140万円まで減額されるというわけです。

問題はTさんがこの140万円をきちんと返済できるのか、という点でした。

通常であれば心配する必要はありませんが、当時はコロナ真っ只中。収入大幅減の状態がいつまで続くのか見通しが立たないなか、果たしてTさんは140万円もの借金をちゃんと返済できるのか?

この問いに対し、借金返済は非現実的と当時の弁護士は判断を下しました。やはり先行き不透明な状態でしたから、見通しを立てられなかったのでしょう。

そのため、Tさんの当初の希望通り、自己破産で話が進められることになりました。自己破産を裁判所に正式に認めてもらうと、一定の財産の没収と引き換えに借金をゼロにしてもらえます。

自己破産したら商売道具はどうなる?

ここで気になるのが、Tさんの商売道具であるタクシーはどうなるのか?という点ですよね。

せっかく借金がゼロになっても商売道具がなくなってしまっては、その後の生活が立ち行かなくなり、再び借金生活に転落してしまいます。

Tさんもその件を心配していました。このTさんの悩みに対する弁護士の回答がこちらです。

裁判所に自由財産の拡張を認めてもらえば、処分を回避できる可能性があります。」

個人タクシーのドライバーの方の場合、タクシーの処分は収入を断たれることに直結します。それは裁判所としても本意ではないので、一般の方よりも自由財産の拡張が認められやすいです。

「自由財産の拡張を認めてもらうことで、タクシーの処分は回避できる」Tさんはこのことを知り、安心して自己破産を行うことにしました。

その後、Tさんは無事裁判所から債務の免責が認められ、自己破産が成立しました。

借金返済の自転車操業状態から抜け出し、ようやく安定した生活を取り戻すことができました。

Tさんは今もお客さんを愛車に乗せて都内を駆け回っています。

自己破産のメリット

さて、ここまで自己破産をしたTさんの事例を紹介してきました。

それではここから、Tさんが選択した自己破産のメリット・デメリットについて、詳しく見ていきましょう。

自己破産は債務整理の中でも最終手段なので、安易に選択するのではなく、事前によくよく検討することが大事です。

自己破産のメリットは以下のとおりです。

①原則として借金はゼロになる

②主婦やフリーター、無収入の人も可能である

任意整理や個人再生といった他の債務整理と違って、借金が完全にゼロになるのが、自己破産の最大のメリットです。

裁判所から債務の免責が得られれば、その瞬間から借金の悩みから解放されるわけです。このインパクトは大きいですよね。

②「主婦やフリーター、無収入の人も可能」とありますが、こういった収入が不安定の方の場合、自己破産以外の選択肢がないとも言えます。

今回のTさんもコロナ禍に突入して収入が不安定になってしまったため、裁判所から自己破産が認められたわけですからね。

自己破産のデメリット

では、続いて自己破産のデメリットを見ていきましょう。

自己破産のデメリットは以下のとおりです。

  1. 財産を手放す必要がある
  2. 債務者を選んで破産することはできない
  3. ブラックリストに載る
  4. 連帯保証人に迷惑がかかる
  5. 官報に掲載される
  6. 手続き期間中に職業や資格の制限がかかる

では1つずつ解説していきますね。

財産を手放す必要がある

第1のデメリットは財産を手放す必要があることです。

自己破産とは、財産をお金に換えて債権者に配当し、配当しても残ってしまった借金を

免除してもらうという手続きを言うので、当然、財産は処分されることになります。

とは言え、あらゆる財産を処分しなければいけない、というわけではありません

今回のTさんのように、処分されると収入源が断たれる場合は自由財産の拡張を主張できます。

また、99万円以下の現金や、財産的価値が一定額(一般的には20万円)以下の物品は、自由財産として手元に残すことが可能です。

一方、自己破産をする際に絶対にやってはいけないのが財産隠し。

財産隠しが発覚すれば、免責が不許可になるだけでなく犯罪行為として厳しく処罰されます。

少しでも財産を手元に残しておきたい気持ちはわかりますが、くれぐれもやらないように気を付けてください。

債務者を選んで破産することはできない

第2のデメリットは、任意整理のように債務者を選べないということです。

自己破産は全ての債務が対象となるので、免責が認められた場合は、全ての借金返済をストップさせないといけません。

ですので、たとえば親族や友人の借金だけは返済しておきたい・・・

みたいなことを考えるのはやめましょう。

これも発覚次第、免責不許可になってしまいます。

ブラックリストに載る

第3のデメリットは、ブラックリストに載ることです。

これは全ての債務整理に共通する部分ですね。

クレジットカードが使用できなくなるのはもちろんのこと、ローンを組んだり携帯電話の分割払いをしたりも5〜10年間はできなくなります。

確かに不便ではありますが、借金がゼロになるわけなので、ここには目をつぶりましょう。

連帯保証人に迷惑がかかる

第4のデメリットは連帯保証人に迷惑がかかることです。

もしもあなたの借金の中に連帯保証人つきのものがあったなら、自己破産が成立するとその借金の請求は連帯保証人に行くようになります。

連帯保証人の方には多大な迷惑がかかるので、自己破産をする前にはきちんと相談しておくべきでしょうね。

ただ、近年の借金でお悩みの方の多くは、連帯保証人付きの借金をしていない傾向が強いので、

この点はあまり心配しなくていいかもしれません。

官報に掲載される

第5のデメリットは官報に掲載されることです。

自己破産をすると、官報という政府発行の新聞のようなものに、氏名や住所が掲載されることになります。

そのため、職業的に官報を見る機会のある、金融業や不動産業、役所や公的な機関に勤務している人々には、あなたの個人情報が知られる恐れがあります。

その一方で、一般の方が官報を見ることはほぼありません。そのため、こちらもそこまで気にしなくて大丈夫です。

手続き期間中に職業や資格の制限がかかる

そして最後のデメリットは、手続き期間中に職業や資格の制限がかかることです。

具体的に言うと、弁護士や司法書士、公認会計士や税理士といった「士業」の資格は停止されます。

他にも、以下の職業に就くことができなくなります。 

・弁護士          ・生命保険募集人
・公認会計士        ・質屋
・税理士          ・割賦購入あっせん業者の役員
・司法書士         ・警備業者の責任者や警備員
・宅建士          ・旅行業務取扱の登録者や管理者
・土地家屋調査士      ・建築業者
・不動産鑑定士       ・下水道処理施設維持管理業者
・公証人          ・風俗業管理者
・人事院の人事官      ・廃棄物処理業者
・公正取引委員会の委員   ・調教師
・貸金業者の登録者     ・騎手

手続中にこれらの職業に就いてしまった場合、違法とみなされますので、会社に相談して休業したり、配置換えをしてもらったりする必要があるでしょう。

なお、免責許可の決定が時点でこの制限は解除されるため、再び以前のように働くことができます。

また、会社役員の方は自己破産をすると役職を退任しないといけません。

これは、役員と会社が結んでいる委任契約が、自己破産によって解除されるという規定があるからです。

ただし、その後に再選されれば役員に復帰することが可能です。

自己破産が認められないケース

ここまで自己破産のメリット・デメリットについて解説してきました。

このように自己破産は多額の借金を抱えた方に残された最強のカードではありますが、中には裁判所から自己破産が認められないケースも存在します。

では、どんなケースが自己破産の認められないケースに該当するのでしょう。

それが以下のとおりです。

  • ギャンブル、株式投資、過大な浪費
  • 意図的に財産を隠す
  • 特定の債権者にだけ優先して返済
  • 返済する意思がないのに自己破産を前提に借入
  • 裁判所に事実とは異なる説明を行う
  • 7年以内に2回目の自己破産(免責)

ここに挙げた理由は全て「免責不許可事由」に該当します。

つまり、ここに挙げた理由で自己破産はできないということです。

借金にありがちなギャンブルや株式投資、過度な浪費では自己破産は認められません。

ただ、破産に至った経緯や事情を説明することで「裁量免責」を狙い、本来なら免責不許可に該当するものを裁判所の判断で免責許可にしてもらうことも可能です。

しかし、裁量免責の成功率は100%ではないので、最初から裁量免責を狙うのは大変危険です。

どうしても裁量免責を受けて自己破産を成功させたいという場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

ここ数年、コロナ禍で苦しんだ方は大勢いらっしゃいましたよね。

なかには、Tさんのような苦境に追い込まれてしまった方もいたかもしれません。

そのような方に残された最終解決策が、今回ご紹介した「自己破産」です。

万人にお勧めできる手段ではありませんが、中には自己破産によって救われる方も確実に存在します。

多額の借金を抱えて首が回らなくなったという方は、自己破産も視野に入れて債務整理を検討することをおすすめします

自己破産には複雑な手続きが必要なため、必ず専門の弁護士に相談しましょう