今、もしもあなたに400万円の借金があるとして、債務整理を考えていたとします。
あなたに借金が返せる収入や財産が全くなければ自己破産をせざるを得ませんが、少しでも返済できる力がある場合には任意整理か個人再生のどちらかを選択することになります。
任意整理か、個人再生か。債務整理を実行する上で、多くの方にとって一番の悩みどころであろうこの2択について、今回はどちらがいいのか、バシッと結論を出します!
「借金が苦しいので、債務整理を検討している」「任意整理と個人再生のどちらにすべきか迷っている」という方はぜひ参考にしてみてください。
任意整理による借金の減額幅

はじめに、「任意整理と個人再生のどちらがいいのか?」ということについて
両者を実行した際の借金の減額幅から答えを出してみましょう。
まずは任意整理ですが、これは借入先の金融会社と、裁判所を介さずに直接交渉して、利息をカットしてもらい、元金のみを3年から5年かけて分割で支払う手続きです。
また、過払い金がある場合には元金を減らすことができます。
つまり、借金400万円を任意整理した場合は、利息がカットされ元金のみとなるので、400万円の借金は丸ごと返済義務が残り続けます。
その代わり、400万円の借金に付随していた利息や、支払いが遅れた際の遅延損害金はカットしてもらうことができます。
借金返済で大きな負担となるのは大抵の場合、膨らみすぎた利息ですから、利息が丸ごとカットされるだけで返済負担は軽くなります。
個人再生による借金の減額幅

続いて、個人再生についてです。
個人再生とは、裁判所を通して借金を1/5〜1/10程度まで減額し、原則3年、場合によっては最長5年以内に分割で支払う手続きです。
では借金400万を個人再生すると、どうなるのか?
個人再生の場合、借金総額に応じて「最低弁済額」というものが定められています。
最低弁済額とは、借金を減額した後に、必ず一部返済しなければならない金額のことです。
具体的には下記の表のとおりです。

簡単に言うと、借金が多ければ多いほど、カットできる割合は増える様になっています。
今回は借金400万円という設定ですから、借金総額は上から2番目の「100〜500万円未満」に該当します。
よって、最低弁済額は100万円となります。これはつまり、400万円の借金が100万円に圧縮されるということです。
個人再生が裁判所によって認められれば、一気に300万円分の借金がチャラになるわけです。
まとめると、任意整理の場合、元金である400万円はまるまる返済義務が残るのに対し、個人再生の場合、元金が100万円まで減額されるわけですから、減額幅を見ると、圧倒的に個人再生に軍配が上がります。
任意整理と個人再生の返済額を比較

では、続いて任意整理と個人再生の、手続き後の毎月の返済額を比較してみましょう。
先ほど解説した通り、任意整理では元金の400万円は返済義務が残り続け、個人再生では元金が100万円に減額されます。
両者を同じ5年間で返済することになった場合、任意整理だと毎月の返済額は7万円弱、個人再生だと毎月の返済額は2万円弱です。
両者で最大5万円ぐらいの差が生じるわけです。
なお、個人再生を選んだ方は、原則3年間での返済が求められるため、実際は毎月の返済額が3万円弱になるでしょう。
毎月の負担額を比較してみると、こちらもやはり個人再生に軍配が上がります。
利息はなくなったとはいえ、月々7万円弱の支払いはなかなかにしんどいですからね。
したがって、借金400万円の方が債務整理で事務所に訪れた場合、専門家はまず個人再生をすることをオススメします。
任意整理と個人再生の手続きの違い

次に、任意整理と個人再生の手続きの違いを見ていきましょう。
任意整理の手続き
任意整理と個人再生の決定的な違いは、裁判所を介在するか否かにあります。
任意整理は裁判所が介在せず、あくまでも借入先の金融会社と弁護士・司法書士が直接交渉するので、依頼者であるあなたがやるべきことはほとんどありません。
あなたのやるべきことは、自分の状況を専門家に包み隠さずお話して、任意整理の委任契約を締結するだけです。
契約が締結され、任意整理の実行が決定されれば、あとは全て専門家が対処してくれます。あなたは話がまとまるのを待つ“だけ”でOKです。
任意整理の交渉中は、月々の支払も借入先からの催促も全て停止しますので、あとはもう安心です。
個人再生の手続き
一方、個人再生を選んだ場合はどんな手続きになると思いますか?
専門家に相談して委任契約を締結するところまでは任意整理と同じですが、個人再生の場合、ここから大きく変わります。
個人再生では沢山の書類を裁判所に提出しなければなりません。裁判所に提出する書類は、大きく分けて2種類に分けられます。
それが「裁判所から取り寄せる書類」と「自分で集める書類」の2つです。裁判所から取り寄せる書類が、こちらです。

後に裁判所に提出することとなるので、作成漏れがないよう気を付けましょう。
次に自分で集める書類とは、住民票や通帳のコピーなど自分で集める必要があるものです。


こうして見ると大量にあるように見えますが、各人の状況に合わせて必要なものが異なるため、ここにある全てを必ず用意しなければいけないわけではありません。
どの書類を用意すればいいのかは専門家の指示を仰ぎましょう。中には期間の指定がある書類もあるため、基本的には3カ月以内に揃えるようにしてください。
これらの書類を裁判所に提出すると、そこで初めて書類審査が行われます。場合によっては追加の説明や書類を求められることもあります。
そして書類の審査に通ると、再生手続開始決定が出されます。ここであなたは、裁判所に借金額を確定してもらうために出廷する必要があります。
裁判所は、申立書をベースにして債権者と債務者であるあなたの双方の主張を、聞き取ったうえで、借金の額を確定します。
借金額が確定したら、今度は「再生計画案」というものを作成・提出しなければなりません。再生計画案とは、借金をどのぐらい減額するか、残りを何年分割で払うかなどを記録したものです。
再生計画を裁判所に提出したら、裁判所の審査を経て債権者のチェックを受けます。そして再生計画案が債権者から認められれば、裁判所から再生計画認可の決定が出され、個人再生の手続きは完了です。
このように、個人再生は借金の減額幅が大きい分、手続きが複雑で面倒であり、当然、手続きが完了するまでの期間も長期化する傾向にあります。
任意整理なら短ければ3カ月で終わりますが、個人再生の場合は最低でも半年、長ければ1年間近くかかることもあります。
ここまで任意整理と個人再生の手続きの違いを見てきました。手続きの簡単さという点では、任意整理に圧倒的に軍配が上がります。
個人再生を選択する際には、これから面倒な手続きが待っていることを覚悟する必要があるでしょう。
任意整理と個人再生の費用

では、次に任意整理と個人再生それぞれにかかる費用についても解説していきます。
任意整理の費用
任意整理に発生する費用は次のとおりです。
- 着手金:債権者1件につき、3~7万円程度。結果にかかわらず返金不可
- 基本報酬:債権者と和解が成立した際に発生。1社につき2~4万円が相場
- 減額報酬:借金を減額できた場合、減額した金額に応じてかかる費用(減額できた金額の5~10%が相場)
一概には言えませんが、感覚的には債権者1社につきおよそ5〜10万円がかかるイメージです。
仮にあなたが3社から借金をしていたら、大体15〜30万円ぐらいがかかるはずです。
個人再生の費用
一方、個人再生に発生する費用には、裁判所に納める費用と、弁護士・司法書士に支払う費用の2つがあります。
裁判所に納める費用は次のとおりです。
- 申立手数料としての収入印紙代:1万円程度
- 裁判所が債権者に書類を送る際の郵便切手代:通常2000〜4000円程度
- 官報公告費用:1万4000円程度
- 個人再生委員の報酬:15万~25万円程度
続いて、弁護士や司法書士に支払う費用は次のとおりです。
- 着手金:20万円以上
- 報酬金:300万円以下の場合→経済的利益の16%
- 300万円を超え3000万円以下の場合→経済的利益の10%+18万円
このあたりの計算はややこしいので、弁護士や司法書士に支払う費用はざっくりと以下の考えていただければ大丈夫です。
- 住宅ローン特則を利用する場合:50~60万円
- 住宅ローン特則を利用しない場合:40~50万円
なお、住宅ローン特則とは、住宅ローンの残った家を維持するための制度です。
つまり、任意整理を選択した場合の費用は15~30万円ですが、個人再生を選択した場合は、裁判所に最高30万円弱、それに加えて弁護士・司法書士費用に40~60万円の、合わせて100万円近くの費用が発生するわけです。
借金の返済で苦しんでいる人にとってはかなりの負担と言えますね。
初期費用は安くて済むが、返済額が大きいままの任意整理と初期費用は高額だが、返済額を大幅に減額できる個人再生、どちらを取るかは債務者のあなた次第です。
ただ、やはり長期的な目線に立つと、個人再生の方が効果的かもしれません。
個人再生がおすすめできないケース

ここまで400万円という高額な借金に対しては、やや個人再生寄りの立場をとってきました。
しかし実は、個人再生がおすすめできないケースというのも存在します。
ということで、最後に、これに当てはまったら個人再生をしない方がいい、という4つのケースを紹介します。
1つでも当てはまる場合は個人再生がおすすめできないので、任意整理を検討するようにしてください!
その4つのケースがこちらです。
- 整理する借金を選びたい
- 家族にバレたくない
- 高額な財産を手放したくない
- 過去に債務整理を経験している
それぞれ簡単に解説します。
①整理する借金を選びたい
個人再生は整理する借金を選ぶことができません。
抱えている借金は全て個人再生の対象となるため、たとえば保証人がいる借金だけは整理したくない、といったことができないので要注意です。
どうしても保証人に迷惑をかけたくない借金がある場合は、任意整理をするようにしましょう。
②家族にバレたくない
個人再生は書類作成の時に世帯全体の収入を報告する必要があるため、家族に収入があればその明細書を出してもらわないといけません。
普段そのような明細書を出してもらう機会はほぼないので、このタイミングで債務整理をすることが家族にバレてしまうんです。
また、個人再生は裁判所を通す方法であるため、裁判所からの何かしらの通知が家に届いてしまうかもしれません。
したがって、どうしても家族にバレたくないという人には、個人再生はおすすめできないのです。
③高額な財産を手放したくない
個人再生には「清算価値保障原則」というものがあります。
ちょっと難しい言葉ですが、「清算価値保障原則」とは、個人再生の再生計画案で決める支払いの金額が、自己破産をした場合に債権者へ支払うことになる金額よりも多くないといけない、という原則です。
つまり、自己破産よりも個人再生の方が、借金を整理した後の金額負担が多くなる必要があるのです。
これによってどうなるかというと、個人再生を選択した場合、車などの高額な財産は手放すことになる可能性が大きいということです。
どうしても車がないと生活ができないと言った方は、個人再生ではなく任意整理を検討するようにしましょう。
④過去に債務整理を経験している
個人再生は、過去に債務整理を行ったことがある場合、一定期間の経過が必要です。
たとえば、過去5年以内に自己破産や個人再生を行ったことがある方は、新たな個人再生手続きは行えません。
そのため、この場合は同じく任意整理を検討しましょう。
以上、個人再生がおすすめできない4つのケースをご紹介しました。
皆さんは、任意整理と個人整理、どちらに魅力を感じましたか?
まとめ
最後に弁護士としての意見を言わせていただきます。
整理する債務を選びたい・家族にバレたくない・高額な財産を手放したくないといった
個人再生がおすすめできないケースに該当する方は任意整理を勧めますが、それ以外であれば個人再生が良いと思います。
確かに手続きは複雑で手間がかかりますが、それを乗り越えれば借金を100万円まで減額することができるからです。
個人再生手続きに100万近くの費用が発生しても、確実に元が取れるためおすすめの方法です。
本記事の内容が、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。